2026/06/30 15:50
【後編】です。【前編】では、コムデギャルソンが展開する現行15ラインを、川久保玲の本流と派生デザイナーの独立ラインに分けて整理しました。
ここからが、この記事のもうひとつの主題です。コムデギャルソン社の50年以上の歴史のなかで、いくつものラインが誕生し、そして終わっていきました。あるラインは他のラインに統合され、あるラインは静かに姿を消し、あるラインは時を経て名前だけが復活しました。
【後編】では、すでに終了・統合・改名されたライン、アクセサリー・特殊ライン、そして古着市場でこれらのラインのタグに出会ったときに何を手がかりにすればよいのか――ヴィンテージ専門店の視点で整理していきます。
下に、【前編】でも紹介した時系列系統樹をもう一度載せておきます。この【後編】で扱う「消えていったライン」たちを、視覚的に追いながら読み進めていただければと思います。

すでに終了・統合・改名されたライン
robe de chambre COMME des GARÇONS(ローブドシャンブル)
1981年〜2004年秋冬/川久保玲/レディース/コムコムに統合
ブランド名はフランス語で「室内着」「ドレッシングガウン」を意味します。1981年のパリコレ進出と同じ年にスタートし、当初は大人の女性のための部屋着・リラックスウェアを中心に発表していました。
時代を追うごとに、室内着というコンセプトを越えてアウターウェアやワードローブの中心となるアイテムも展開するようになり、「派手過ぎず地味過ぎない普遍的でシンプルなデザイン」を持つ大人の女性のためのデイリーウェアラインとして高い人気を博します。
しかし2004年秋冬コレクションをもって終了し、2005年春夏より「COMME des GARÇONS COMME des GARÇONS(コムコム)」に統合されることになりました。現在のコムコムは、ローブドシャンブルの遺伝子を引き継いだラインでもあるのです。
古着市場では、1980年代から2000年代前半までの23年間にわたるアイテムが流通しており、特に1990年代のウールギャバジン素材のジャケットや、ラインストーン使いの装飾的ピースなどが人気です。「robe de chambre COMME des GARÇONS」というタグそのものに価値を見出すコレクター層も少なくありません。
tao COMME des GARÇONS(タオ初代)
2005年秋冬〜2011年春夏/栗原たお/レディース/終了
栗原たおが自身の名を冠して立ち上げた初めての独立ライン。2005年秋冬に発足し、パリの自社フロアにて最初のファッションショーを行いました。
2011年春夏コレクションをもって終了することが報じられた通り、惜しまれつつ展開を終えています。しかし2022年春夏に、それまで栗原たおが手掛けていた「tricot COMME des GARÇONS(トリコ)」が「tao」へと改名されることで、ブランド名としての「tao」は11年ぶりに復活することとなりました。一度終わったブランド名が、別のラインの改名というかたちで蘇るのは、コムデギャルソン社のなかでも非常に珍しいケースです。
タオ初代のアイテムは現在の古着市場では希少性が高く、コレクター需要のある時代です。
GANRYU(ガンリュウ)
2008年〜2017年春夏/丸龍文人/メンズ・ユニセックス/終了
渡辺淳弥のもとでパタンナーを務めていた丸龍文人が2008年(ブランドの始動自体は2007年)からスタートしたライン。ヨウジヤマモトや川久保玲の系譜にある日本的なアバンギャルドと、現代のストリート/カジュアルカルチャーを接続するような独特の立ち位置でした。
**2017年春夏コレクションをもって終了し、丸龍文人はコムデギャルソン社を退社、その後独立して「FUMITO GANRYU」を立ち上げています。**ガンリュウは、コムデギャルソン社で唯一、終了したのちにデザイナーが社外で自身のブランドへと発展させた例で、現在のFUMITO GANRYUを愛用している方は、その源流としてGANRYU時代のアイテムにも注目してみる価値があります。
COMME des GARÇONS HOMME PLUS EVER GREEN(エバーグリーン)
2005年秋冬〜2009年秋冬/川久保玲/メンズ/終了
オムプリュスの内部ラインとして2005年秋冬に立ち上げられた、過去のシーズンの傑作デザインを復刻・アレンジするためのプロジェクト的ライン。各シーズンごとに、過去のオムプリュスの名作シーズンをひとつ選び、それをアレンジして再展開していくという、コムデギャルソンとしてはきわめて珍しい「アーカイブ復刻」型の試みでした。
代表的なシーズンとしては、2005年秋冬「インサイド・アウト・サイド(1998年秋冬の復刻)」、2006年春夏「ドッキング・ロック(2000年秋冬)」、2006年秋冬「マジック・オブ・バイアス(1997年秋冬)」、2007年春夏「シークレット・トレジャー(俗称:フリル期、1999年春夏)」、2009年秋冬「ピンクパンサー(2005年春夏)」など、オムプリュスの名作の系譜を辿るかのような構成でした。
**2009年秋冬をもって終了。**古着市場では「EVER GREEN」のタグが付いたアイテムは比較的レアで、オリジナルの該当シーズンと並んで取引されることもあります。
JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS MAN (PINK)
2003年春夏〜2014年春夏/渡辺淳弥/メンズ/終了
通称「ピンク」または「ジュンヤMAN PINK」と呼ばれた、JUNYA WATANABE MANの派生ラインです。ピンク色の上品なタグが特徴で、JUNYA WATANABE MAN本体のコラボレーション展開と密接に連動して、リーバイスやブルックスブラザーズ等とのコラボレーションアイテムを中心に展開されていました。
2014年春夏で終了しています。ジュンヤワタナベMANの初期コラボレーション史を辿るうえで、PINKタグの存在は欠かせない要素です。
COMME des GARÇONS SHIRT GIRL(シャツガール)
2010年春夏〜2014年秋冬/川久保玲/レディース/GIRLに発展
COMME des GARÇONS SHIRTのコレクション内で2010年春夏から発表されていたサブライン。タグにGIRLの文字は刺繍されておらず、文字色がピンクの「COMME des GARÇONS SHIRT」が当時のサインでした。
**2014年秋冬で終了し、翌2015年春夏より「COMME des GARÇONS GIRL」として単独ブランド化されます。**現在のGIRLラインの直接の前身にあたります。
COMME des GARÇONS SHIRT BOY / boys(シャツボーイ/ボーイズ)
2015年秋冬〜2019年春夏/川久保玲/メンズ/終了
2015年秋冬に「COMME des GARÇONS SHIRT BOY」として、SHIRTのコレクション内で発表されたサブライン。翌2016年秋冬より「COMME des GARÇONS SHIRT boys」へと小文字に改名され、2019年春夏をもって終了しました。
GIRLが独立ブランドとして成功したのに対し、対をなすボーイズラインは独立に至らないまま展開を終えた、コムデギャルソンとしては珍しいケースです。
その他の短期終了ライン
上記の主要な終了ライン以外にも、コムデギャルソン社の歴史にはより短期で終わった、あるいは特殊な事情で展開されていた小さなラインがいくつもあります。古着市場でタグだけ見かけて疑問に思った方のために、代表的なものを整理しておきます。
COMME des GARÇONS HOMME (Inverted)(オムスペシャル):白地に黒文字のロゴが特徴で、モードへの叛意を表現したライン。1998年秋冬まで展開され終了。
COMME des GARÇONS HOMME HOMME:上記の後継として、1999年春夏から2001年秋冬まで展開。HOMMEにHOMMEを重ねた表記でモードへの叛意を継承した位置付けでした。
COMME des GARÇONS 青山twoオリジナル:1999年春夏〜2001年秋冬まで青山店周辺で展開された限定ライン。
COMME des GARÇONS HOMME PLUS for District:2000年秋冬〜2002年秋冬まで展開(2005年秋冬に一部再開)。ユナイテッドアローズのDistrictとのコラボレーション的なライン。
PEGGY MOFFETT COMME des GARÇONS:2003年春夏〜2005年秋冬まで展開された、1960年代のアイコニックなモデル、ペギー・モフィットをテーマとしたコラボ的ライン。
SPORTS COMME des GARÇONS HOMME PLUS:2005年秋冬〜2006年秋冬。毎期ひとつのスポーツ(2005秋冬:ボウリング、2006春夏:ボクシング、2006秋冬:スキー)をイメージしたデザインを展開する短期プロジェクト。
JUNYA WATANABE MAN bis:2009年〜、メンズで定番化したシリーズをレディースサイズで展開したライン。10コルソコモと渋谷PARCOパートIの取扱いのみという限定展開でした。
GOOD DESIGN SHOP COMME des GARÇONS:2011年7月22日にナガオカケンメイ氏監修のD&DEPARTMENTとのコラボレーションとして表参道GYREにオープンしたショップ専用ライン。2014年に大阪店にも2号店がオープンしましたが、2018年7月をもって両店ともクローズしています。
10・corso・como COMME des GARÇONSオリジナル:2002年創設、イタリア・ミラノのセレクトショップ「10コルソコモ」との共同作業による青山店至近のショップ専用ライン。2012年2月14日に閉店。
これらのラインは展開期間が短かったり、特定店舗・地域限定だったりするため、古着市場で出会う頻度はそれほど高くありませんが、見つけたときには「コムデギャルソン社の歴史のなかの、ある特定の文脈に属するアイテム」として、その背景を踏まえて手に取っていただければと思います。
アクセサリー・特殊ライン
服のコレクションラインとは別に、コムデギャルソン社は革小物、香水、コラボレーションを軸とした特殊ラインも展開しています。家系図には収まりきらないため、簡単に触れておきます。
**Wallet COMME des GARÇONS(ウォレット/1994年〜)**は、革小物に特化したライン。ジップで縁を覆ったデザインは当時の財布としては斬新で、現代の財布の形を変えたとも評価されています。スペイン製革を使用したスペイン生産のものと日本生産のものがあります。
**COMME des GARÇONS PARFUMS(パルファム/1994年〜)**は香水のライン。「アンチパフューム」をコンセプトに、焼けたゴムやコピー機の熱気をモチーフにするなど、洋服と地続きの精神性を持つ香りを作り続けています。「SERIES 1:」から「SERIES 8:」までシリーズで展開され、パリ店ではコムデギャルソン初のチョコレート(SERIES 1:)も販売されています。
**The Beatles COMME des GARÇONS(ビートルズ/2009年〜)**は、オノ・ヨーコ氏からの呼びかけを契機にスタートしたコラボレーションライン。ポール・マッカートニーの動物愛護の意向を尊重し、皮革を使用しないバッグや小物が中心です。
**COMME des GARÇONS 青山ショップオリジナル(1989年〜)**は、青山店だけで販売される極めてレアなライン。タグのロゴはCOMME des GARÇONSの頭字のCのみ黒抜きになっているのが特徴。一部は海外直営店や、京都店(2002年〜)、大阪店(2003年〜)、名古屋ラシック店などでも販売されています。
**COMME des GARÇONS 直営ショップオリジナル(2005年〜)**は、青山・丸の内・伊勢丹新宿メンズ館CORNER・渋谷西武EDITED・静岡・京都・大阪・神戸・福岡・ラシック・ニューヨーク・ドーバーストリートマーケットなどの直営ショップで販売されるライン。タグのロゴはCOMME des GARÇONSに下線が引かれている、というのが見分けのサインです。
ヴィンテージ・古着での見分け方
ここからは、古着屋として一番お伝えしたい実用的な内容です。コムデギャルソンの古着を購入する際に、年代やラインを見分けるためのポイントをまとめます。
タグ(織りネーム)でラインを見分ける
※ こちらに当店の実物アイテムのタグ写真を挿入できます(HOMME PLUS、SHIRT、tricot、BLACK 等)
コムデギャルソン社の各ラインは、それぞれ固有のタグデザインを持っており、これがライン判定の最初の手がかりになります。
たとえば、本ラインの「COMME des GARÇONS」と、CdG HOMMEの「COMME des GARÇONS HOMME」は一見似ていますが、HOMMEの方は「HOMME」の文字が右側にきちんと配置され、書体やレイアウトも別途デザインされています。HOMME PLUSは「HOMME PLUS」と続いた表記になります。
シャツラインは小さな織りネームが内側に縫い込まれており、フランス製の表記とともにシャツライン固有のフォントが使われています。BLACKラインは、その名のとおり黒地に白文字のシンプルなタグが基本です。
トリコは独特の筆記体風の「tricot」ロゴが特徴で、2022年以降のtaoラインは小文字筆記体の「tao」表記に変わっています。
シャツガールの場合、タグにGIRLとは刺繍されておらず、**文字色がピンクの「COMME des GARÇONS SHIRT」**であることが見分けのサインです。「SHIRT GIRL」と書かれていないからといってSHIRTライン本体だとは限らないので、注意が必要です。
オム系のラインでは、HOMME(Inverted)と通常のHOMMEを見分けるポイントとして、白地に黒文字のタグ(Inverted)か、その逆か、というのがひとつの判別軸になります。
ADコードで年代を特定する
※ こちらに当店のADコード付きタグの写真を挿入できます
コムデギャルソンの多くのラインでは、内側のタグに「AD20XX」という表記が記載されています。これはコレクションの設計年を示すコードで、たとえば「AD2003」とあれば、2003年に設計された秋冬コレクション、もしくは翌2004年春夏に納品されたピース、という意味になります。
ただし、シャツラインなど一部のラインではADコードの記載がない場合もあり、その場合は織りネームのフォント、家庭用品品質表示法の表記スタイル、繊維製品品質表示者番号(「D-TK9210」等)の有無で年代を判定することになります。1997年10月1日に家庭用品品質表示規程が改正されたため、それ以降に製造されたアイテムには「D-TK9210」の記載がありません。これは1997年以前か以後かを判定するうえでの強力な手がかりです。
製造国の表記をチェックする
ラインごとの製造国の傾向は、ある程度パターン化されています。本ラインとオムプリュスは日本製が中心ですが、近年は輸入生地の使用が増えています。シャツラインはフランス製、ニットラインのトリコ/taoはイタリア製や日本製、ビートルズコムデギャルソンのバッグ類は日本製、ウォレットラインの革小物はスペイン製。これらは古着の現物確認時に、ライン認証のひとつの目安として機能します。
古着で狙うべきおすすめのライン
※ こちらに当店のおすすめ実物アイテム写真を挿入できます
最後に、これからコムデギャルソンの古着を集めたいという方に向けて、当店からのおすすめをいくつか挙げておきます。
1. JUNYA WATANABE MAN(とくに2000年代のコラボピース)
メンズで一本目を選ぶならここから入っていただきたいラインです。リーバイスやノースフェイス、カーハートとのコラボ作品は、デザイナーズアイテムとしてもアメリカンクラシックの再解釈としても、複数の文脈から楽しめる懐の深さがあります。
2. COMME des GARÇONS HOMME(とくに田中啓一期)
1990年代から2000年代前半の田中啓一期のオムは、相場が比較的落ち着いており、にもかかわらずパターンと素材のレベルは非常に高い、いわばコムデギャルソンの「掘り出し物の時代」です。日常的に着られる正統派のメンズアイテムが多く、最初の一着として失敗が少ないラインです。
3. オムプリュス(とくに1990年代〜2000年代前半)
予算に余裕があれば、ぜひ手に取っていただきたい時代の最高峰。コレクターズアイテムとしての価値も含めて、本気でコムデギャルソンを所有する経験ができるラインです。
4. robe de chambre COMME des GARÇONS(終了ラインへの入口として)
すでに統合されて存在しないラインだからこそ、出会いそのものに価値があります。1990年代後半から2000年代前半の作品は、コムデギャルソンの日常着としての側面が最もよく表れた時期で、リアルクローズとしての完成度も高い隠れた名作群です。
5. シャツライン(フランス製のフォーエバー)
普段使いに最適。フランス製のコットンブロード生地の質感は、一度袖を通すと他のシャツに戻れなくなるレベルです。流通量も豊富で、お探しの方には選択肢が多いのも嬉しいポイントです。
おわりに
コムデギャルソンというブランドは、1969年から現在に至るまで、ひとつのアバンギャルドな精神を中核に置きながら、半世紀かけて20を超えるラインへと枝分かれを繰り返してきました。そのなかには、現在も世界のファッションシーンの最前線にあるラインもあれば、すでに役目を終えて静かに姿を消したラインもあります。
ローブドシャンブル、エバーグリーン、シャツガール、シャツボーイ、JW MAN PINK、tao初代、ガンリュウ、HOMME(Inverted)。これらの名前のひとつひとつが、コムデギャルソンという「経営をデザインする」(川久保玲)クリエイションの組織が、半世紀にわたって試行錯誤してきた痕跡です。
古着としてコムデギャルソンを手に取るということは、その長い歴史のある一点の作品と直接触れるということです。タグの書体、ADコード、製造国、素材の選択。そのひとつひとつが、その服がどの時代のどのデザイナーの判断のもとに生まれたのかを語っています。そして、すでに存在しないラインのアイテムに出会ったとき、それは二度と新作が生まれることのない、ひとつの完結したクリエイションの最後の証言です。
当店「No Pain No Gain」は、東京・表参道のRib Aoyama地下にて、ヴィンテージバーバリーを軸にしながらも、コムデギャルソンをはじめとする日本のアバンギャルドアーカイブも継続的に取り扱っています。気になるアイテムがあれば、店頭でもオンラインでもお気軽にお問い合わせください。
タグの読み方やシーズンの特定、すでに終了したラインの真贋など、古着としての見方の細かいご相談もお受けしておりますので、コムデギャルソンの古着を本気で楽しみたいという方は、ぜひ一度お声がけいただければと思います。
この記事は、東京・表参道のヴィンテージ古着店「no pain no gain」が運営するブログ記事です。バーバリーをはじめとする1990年以前のヴィンテージコート、コムデギャルソンを含む日本のアバンギャルドアーカイブを扱っています。
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