2026/06/30 15:43
「コムデギャルソンって、結局いくつブランドがあるんですか?」
店頭に立っていると、シーズンを問わず最も多く受ける質問のひとつです。
それも当然のことで、コムデギャルソン社は1969年の創業以来、半世紀以上の時間をかけて20を超える独立したラインを世に送り出してきました。
さらに、そのなかには既に廃止されたライン、他のラインに統合されたライン、名称変更されたライン、そして一度終了したのち、別の形で復活したラインまで存在しており、現役のラインだけを並べても全貌は見えてきません。
この記事では【前編】として、コムデギャルソン社の全ラインを「家系図」のかたちで一望できる3つの年表を起点に、現在も継続している現行ライン15ラインを、川久保玲が手掛ける本流と、派生デザイナーが率いる独立ラインに分けて整理しました。【後編】では、すでに終了・統合・改名されたライン、アクセサリー・特殊ライン、そしてヴィンテージ古着としての見分け方を解説していきます。
東京の古着屋として、コムデギャルソンの古着を本気で楽しみたい方にとって長く参照していただける資料を目指しました。
コムデギャルソン ラインを3つの角度から俯瞰する
コムデギャルソン社は1969年の創業以来、20を超えるラインを生み出してきました。それらを「時系列」「性別カテゴリ」「デザイナー別」の3つの異なる角度から見るための図を、当店オリジナルで作成しました。順に見ていきます。
図1:時系列系統樹(1969–2026)
下の図は、コムデギャルソン社が展開してきた主要23ラインを、創業年順に縦に並べ、2026年現在までの時間軸上にプロットしたものです。線が現在まで伸びきっているものは「現在も継続しているライン」、途中で✕マークと共に止まっているものは「すでに終了したライン」、Z字型に次のラインへスロープが繋がっているものは「改名・統合されたライン」を意味します。

この図は、地質年代表における生物の進化や絶滅を示す系統樹の構造を意識して設計しました。半世紀にわたって新しいラインが生まれ、ときに統合され、ときに終了し、ときに復活してきた歴史を、一望できるかたちで表現しています。
特に注目していただきたいのが4つの「血脈の流れ」――tricot → tao(2022改名)、robe de chambre → コムコム(2004統合)、SHIRT GIRL → GIRL(2014→2015独立)、そしてtao初代の終了から11年後の名称復活。Z字型のスロープと点線アーチがこの構造的変化を視覚化しています。
図2:性別カテゴリ分類(メンズ/レディース/ユニセックス)
ラインを性別カテゴリで整理すると、コムデギャルソンの全体像がまた違って見えてきます。

左の円がメンズ8ライン、右の円がレディース10ライン、そして中央の重なり部分がユニセックス5ライン。たとえばコムデギャルソンシャツやPLAYのように、メンズ・レディース両方で着られる「通しサイズ」のラインが、二つの円のちょうど交差点に位置することがわかります。古着で「これは何用?」と迷うことがあったら、まずこの図のどこに位置するかを確認すると判断しやすいはずです。
図3:デザイナー別 担当ブランド
コムデギャルソンを動かしているのは、現在4人+退社済の2人、計6人のデザイナーです。それぞれが「いつ、何のラインを担当してきたか」を一枚にまとめました。

カードの上部のカラーバーが、それぞれのデザイナーの「色」です。青:川久保玲(創業者・現役)、赤:渡辺淳弥(副社長・現役)、緑:栗原たお(現役)、紫:二宮啓(現役)、灰:田中啓一(退社済)、茶:丸龍文人(退社、現FUMITO GANRYU主宰)。
特に興味深いのがデザイナーの交代です。CdG HOMMEは川久保→田中→渡辺と3度交代し、tricot/taoも当初→渡辺→栗原と2度交代しました。古着市場で同じ「コムデギャルソンオム」のタグでも、生地・パターンの性格が時代によって大きく異なる理由がここにあります。
以下、各ラインを個別に解説していきます。
川久保玲が手掛ける現行ライン
COMME des GARÇONS(本ライン)
1969年〜/川久保玲/レディース
すべての出発点となるレディース本ラインです。1969年に川久保玲がブランドを立ち上げ、1973年に「コムデギャルソン株式会社」として法人化、そして1981年にパリコレクションへ進出します。このパリデビューシーズンは後に「黒の衝撃」と呼ばれ、ヨーロッパのファッション界の常識を根底から揺さぶった事件として記憶されています。
現在に至るまで80を超えるコレクションを発表しており、川久保玲のその時々の関心が最も純度高く反映される、コムデギャルソンにとって最重要のラインです。古着市場では1980年代後半から1990年代の作品が特にコレクター需要が高く、いわゆる「黒の時代」の縮絨ポリエステルや、1990年代のパッチワーク・脱構築期のピースは、状態の良いものはかなりの希少価値があります。
COMME des GARÇONS HOMME PLUS(オムプリュス)
1984年〜/川久保玲/メンズ
フランス語で「最上級」を意味する「PLUS」を冠した、川久保玲によるメンズパリコレクションライン。コムデギャルソンのメンズにおける最高峰と位置付けられています。
縮絨加工、フリル、脱色、スカート、サルエル、PVC、ピンクやゴールドといった、男性服のルールから意図的に外れた要素を組み込み続けてきました。古着で探す場合、1990年代から2000年代前半のオムプリュスは現代のものよりさらに実験性が強く、コレクターズアイテムとして人気です。タグの書体や縫製仕様で年代判定が可能で、ADコードを参照することでほぼ正確にシーズンが特定できます。
HOMME DEUX COMME des GARÇONS(オムドゥ)
1987年〜/川久保玲/メンズ
ブランド設立当初は「日本人男性のためのビジネススーツ」というコンセプトで始まり、2009年秋冬にユナイテッドアローズ上級顧問の栗野宏文氏を新アドバイザーに迎え、「SUITS FOR THE HANDSOME MIND(ハンサムな心のためのスーツ)」を新たなコンセプトとして大規模なリニューアルを行ったメンズラインです。リニューアルを機にロゴとタグデザインも一新されています。
縫製は日本でも有数のスーツ縫製工場で仕立てられており、ラペルの返り、ダーツの処理、芯地の入れ方など、本格的なテーラードジャケットの技術が投入されています。古着市場では1990年代以降の正統派ビジネススーツ期と、2009年リニューアル以降のカジュアルジャケット期で、まったく性格の異なるアイテムが見つかります。
COMME des GARÇONS SHIRT(シャツ)
1988年〜/川久保玲/ユニセックス
「シャツ」という形が決まったアイテムのなかで、その可能性をどこまで広げられるかを探求するコンセプトラインです。展開アイテムの大半がフランス製で、メイン素材であるコットンブロードには、トーマス・メイソンやアルビニといった高級素材メーカーの100番手以上の生地が使われています。
定番の「フォーエバー」シリーズは、上質なフランス製シャツとしてデイリーに取り入れやすく、コムデギャルソンシャツの入門としてしばしばおすすめされます。古着としては、シャツという普遍的なアイテムであるため流通量は比較的多く、年代を問わず手に入れやすいのが魅力です。
COMME des GARÇONS COMME des GARÇONS(コムコム)
1993年〜/川久保玲/レディース
川久保玲の考える「ベーシック」を提案する、通称コムコム。丸襟のジャケットやシャツ、ドローコード仕様のイージーパンツなど、本ラインに比べてリラックスしたシルエットのアイテムが中心です。
**このラインの重要な転換点は2005年春夏で、後述する「robe de chambre COMME des GARÇONS(ローブドシャンブル)」が統合されたことです。**統合後はデザインチーム制となり、川久保玲を中心にチームが手掛けるかたちでルックが構成されるようになりました。素材は日本製を中心に、一部フランス、イタリア、トルコ、ブルガリア、ハンガリー、中国などからのインポートも含まれています。
ファーストラインのコムデギャルソンでは縮絨加工ポリエステルが近年使用頻度を下げているのに対し、コムコムでは継続してルックに登場しているため、縮絨加工が好きな方にとっては要注目のラインです。
BLACK COMME des GARÇONS(ブラック)
2009年〜/川久保玲/ユニセックス
2008年のリーマンショックを受けて2009年に立ち上げられた、いわゆる「エマージェンシーブランド」です。当初は1年半の期間限定の予定でしたが、世界的な経済危機下でも支持を集めたことで定常ラインへと移行しました。
2010年秋冬にはセレクト形態を取り入れた「EDITED BLACK COMME des GARÇONS」というショップ名へと変わり、過去の売れ筋デザインをタブロイド誌のバックナンバーのようにアレンジしたアイテムをオーダーできるという、ファッションブランドとしては初の試みも行いました。
メンズ・レディースの区別がない通しサイズ(XXS〜XXL)を採用しており、2020年4月にはドーバーストリートマーケット各店、5月には公式オンラインストアでの販売を開始し、流通面でも継続的に新しい試みが行われています。
COMME des GARÇONS GIRL(ガール)
2015年〜/川久保玲/レディース
実は、GIRLというラインには前身があります。2010年春夏にCOMME des GARÇONS SHIRTのコレクション内で発表された「COMME des GARÇONS SHIRT GIRL(シャツガール)」がそれで、ピンクの文字色のシャツタグで展開されていましたが、2014年秋冬で終了。その後、ラインナップを拡充するかたちで、2015年春夏より「COMME des GARÇONS GIRL」として単独ブランドとなりました。
「幼少期と制服」をコンセプトとし、実際の制服でも使われるウールギャバジンやウールトロピカルといった素材を用いた、リアルクローズに近いガーリーな世界観が特徴です。スカートに胸当てとエプロンがドッキングした「ジャンパースカート(通称ジャンスカ)」は、このラインのアイコンとして広く認知されています。
CDG(シーディージー)
2018年〜/川久保玲/ユニセックス
コムデギャルソン創設50周年を記念して立ち上げられた、新しい総合ライン。コンセプトは「タイムレス」「コラボレーティブ」「アイコニック」の3語に集約されます。2018年7月20日に東京・大阪の旧グッドデザインショップ跡地に旗艦店がオープンし、2018年11月には公式オンラインショップも開設されました。
コレクションラインに比べて新作の投入頻度が高く、ヴァンズ、ステューシー、オンライン・セラミックスなどの幅広いブランドとのコラボレーションも頻繁に行われています。
PLAY COMME des GARÇONS(プレイ)
2002年〜/川久保玲/ユニセックス
ハートマークでお馴染みの、コムデギャルソンのなかでもっとも幅広く知られているライン。グラフィックを手がけたのはポーランド人のグラフィックデザイナー、フィリップ・パゴウスキー。コムデギャルソン唯一のキャラクターブランドという位置付けでもあります。
コンバースやザ・ノース・フェイスとのコラボレーションも継続的に展開されており、コムデギャルソンのなかでもビジネス的にも大きな成功を生んだラインとなりました。
派生デザイナーが率いる現行ライン
COMME des GARÇONS HOMME(オム)
1978年〜/川久保玲→田中啓一→渡辺淳弥/メンズ
コムデギャルソン社のメンズラインのなかで最も歴史が古い、原点的なライン。初代デザイナーは川久保玲、その後は田中啓一が引き継ぎ、現在は渡辺淳弥がデザインを担当しています。
コンセプトは「Good Sense, Good Quality(グッドセンス・グッドクオリティー)」。古着として探す場合、デザイナーの交代に伴って性格が三段階で変わっていく点が興味深いところで、1980年代の川久保期、1990年代から2000年代の田中期、そして現在の渡辺期で、同じ「コムデギャルソンオム」というタグでもパターンや素材選びの傾向が大きく異なります。
JUNYA WATANABE(ジュンヤワタナベ)
1992年〜/渡辺淳弥/レディース
渡辺淳弥が手掛ける、レディースのパリコレクションライン。1992年に東京・両国駅の旧改札口でショーを行い、その評判が瞬く間に広がって、翌年にはパリコレクションデビューを果たしました。2022年春夏コレクションを機に、旧称の「JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS」から現在の名称に変更されています。
川久保玲のクリエイションが「線から点」と評されるのに対し、渡辺淳弥のそれは「点から線」と表現されます。ディテールと仕様への異常なまでのこだわりがファンを惹きつけ、デニムとチュール、フェイクレザーとジョーゼットといった相反する要素をひとつの服に同居させる手法が、このブランドのアイデンティティとして定着しています。
JUNYA WATANABE MAN(ジュンヤワタナベ マン)
2002年〜/渡辺淳弥/メンズ
渡辺淳弥が手掛けるメンズパリコレクションライン。「Something Real(何か本当のもの)」をコンセプトに、伝統的なメンズの仕立てに対して、ステッチワークや解体と再構築を加えていくアプローチで構成されています。
リーバイス、ブルックスブラザーズ、カーハート、ザ・ノース・フェイスといった「メンズの王道」と呼ぶべき大手ブランドとの長期コラボレーションで知られ、ノースフェイスのデイバッグを分解しジャケットにドッキングさせた「タートルジャケット」シリーズなど、技術的にも業界に衝撃を与えた作品を多く生み出してきました。
eYe COMME des GARÇONS JUNYA WATANABE MAN(アイ)
2005年〜/渡辺淳弥/メンズ
JUNYA WATANABE MANのセカンドラインとして2005年にスタートしたメンズライン。当初は原宿店(東京)・南堀江店(大阪)の直営店向けオリジナルとして、最初の2年間は「アウトドア」をテーマに展開されていました。
「eYe(アイ)」は「渡辺淳弥の目から見たベーシック」という意味で、コレクションラインではないためシーズン毎のテーマは設定されず、着回しやすいニュートラルな味付けとなっています。ザ・ノース・フェイスやニューバランスなどスポーツ系ブランドとのコラボレーションが多くリリースされており、現在は新宿伊勢丹メンズ館、渋谷西武、渋谷PARCO、名古屋パルコ、京都藤井大丸、梅田阪急メンズ館、大阪、福岡の各直営取扱店で扱われています。
noir kei ninomiya(ノワール ケイ ニノミヤ)
2012年〜/二宮啓/レディース
実は、このブランド名のなかの「noir」という言葉自体は、もっと古くからコムデギャルソンに存在してきた概念です。元々は1987年頃から「COMME des GARÇONS noir(コムデギャルソン・ノアール)」というラインとして、川久保玲が「黒」を主軸に表現するラインが存在していました。一度は途絶えたとされますが、2005年秋冬より川久保玲のもとで再開されており、その流れを2012年(コレクションデビューは2013年春夏)から二宮啓が引き継いだ形で、現在の「noir kei ninomiya」へと至っています。
二宮啓は青山学院大学を経てアントワープ王立芸術アカデミーに入学、その後コムデギャルソンに入社しパタンナーとして4年間勤務、29歳という社内最年少でデザイナーとして独立するに至りました。レーザーカット、超音波での素材接着、チェーンやリングで布同士をつなぐ縫わない手法など、従来の縫製の常識から外れた製法を多用しています。2018年にはモンクレールとのコラボレーション「6 MONCLER NOIR KEI NINOMIYA」を発表し、ブランドの認知度を一気に押し上げました。
tao(タオ)
2022年〜/栗原たお/レディース
このラインは、もともと1981年スタートの「tricot COMME des GARÇONS(トリコ)」というラインでした。当初は渡辺淳弥がデザインを担当していましたが、2003年から栗原たおが引き継ぎ、そして2022年春夏コレクションを機に「tao」という新名称へと改名された経緯を持ちます。同じく2022年に、渡辺淳弥のラインも「JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS」から「JUNYA WATANABE」へと改名されており、コムデギャルソン社全体としてブランド名のリブランディングが行われたタイミングでもあります。
実は栗原たおには、過去にも「tao COMME des GARÇONS」という自身の名を冠したラインを2005年秋冬から2011年春夏まで持っていた経歴があります。このtao初代は終了したものの、2022年にトリコの改名というかたちで「tao」というブランド名自体は復活した、ということになります。
栗原たお自身もアントワープ王立芸術アカデミー出身で、コムデギャルソンのなかでも特に「インポートの香り」を強く感じさせる素材使いとシルエットが特徴です。古着としては、トリコ時代の作品も含めて、ニットや羽織りものを中心に独特の温度感を持つ服が見つかります。
【後編】へ続きます
ここまでが、現在も継続している15のラインの解説でした。【後編】では以下を扱います:
- すでに終了・統合・改名されたライン(ローブドシャンブル、tao初代、GANRYU、HOMME PLUS EVER GREEN、JW MAN PINK、SHIRT GIRL、SHIRT BOY 他)
- アクセサリー・特殊ライン(WALLET、PARFUMS、ビートルズ、青山・直営ショップオリジナル)
- ヴィンテージ古着での見分け方(タグ判定、ADコード、製造国、おすすめライン)
→ 【後編】コムデギャルソン全ライン家系図|消えたライン群と古着の見分け方
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